そう言うと、野乃は数瞬、瞳をさまよわせたあと、リンリンとドアベルを鳴らして店の外へ飛び出していった。


 やっぱり心配だったようだ。


 文香さんのほうも、渉の前では涙一つこぼさず気丈に笑ってみせていたけれど、胸中はまだ複雑なのだ。


「渉さん、俺はどうしましょう……?」


 野乃の姿が見えなくなると、弱りきったように元樹君が口を開いた。


 渉は「ははっ」と笑うと、


「野乃ちゃんが心配なら、今日もスプライト飲みながら待っとく?」


「……はい、じゃあ」


 困り顔で笑う元樹君を店の中へ招き、さっそくスプライトをグラスに注いだ。



 しかし、午後六時を過ぎても野乃はなかなか戻ってこなかった。


 辺り一帯は茜色に染まり、その色が店からも臨める海面に反射してキラキラと揺らめいている。


「……野乃のやつ、ちょっと遅くないですか?」


「そうだね、どこまで行ったんだろう」


 元樹君と二人、暮れなずむ海を眺めて嘆息をもらす。