馴染みのお客様たちからのおすそ分けがなければ、渉はとうに生活できなくなっていただろうし、律義に代金を置いていってくれる源蔵さんらがいなければ、この店だって早い段階で畳むことになっていたかもしれない。


 彼らを当てにしているというわけでは、けしてないけれど、頼りきってしまっているなという自覚は、ずいぶん前からある。


 何かお礼をしなければと常々思っているが、それもどうしたらいいのやら……。


 いや、思考が少し脱線してしまった。


「どうですか? カプチーノ、美味しく感じられるようになってきました?」


 気を取り直して尋ねると、文香さんは手帳の上に置いた写真を愛おしそうに撫で、


「はい。だいぶ」


 と笑った。


 話しはじめるまではずいぶん思い詰めた顔をしていたけれど、なんの後腐れもない渉に話したおかげで、少しずつ表情が明るくなってきているようだった。


 ここに訪れる人の中には、ある程度自分の中で答えを出して来る人も多い。


 何かの本で読んだことがある。


 口に出した時点で、それはもう〝答え〟になっているのだと。