いたずらっぽい笑みだ。渉は少し返答に迷いつつ、


「すみません、アドバイスなんてできるほど、恋愛経験がないんです」


 カップを持つ手と反対の手で苦笑混じりに後頭部を掻いた。


「そうなんですか? 優しい顔立ちだし口調も穏やかだし、モテそうなのに」


「いえいえ。若年寄なんて言われて全然ですよ」


「私が失恋したばっかりだからって、謙遜……とかじゃないですよね?」


「はい。びっくりするくらいモテません」


「……ぷっ」


 たまらず吹きだす文香さんに、渉も笑う。


 でも、本当にそうだ。


 渉のところにはこうして失くした恋を抱えたお客様がときどき店を訪れるけれど、昨日文香さんにも言ったように、渉はただ、お客様がぽつりぽつりとこぼしていく話を聞いて、一緒にコーヒーを飲むだけだ。


 しかもそれだって、渉が勝手に一緒に飲んでいるというだけのことである。


 お客様のいる前で堂々と休憩するなんて、自分でも逆にどうかと思っているくらいだ。


 だからコーヒー豆の減りも意外と多い。