「そうかもしれませんね。文香さんがそう思うのなら、きっとそうなんだと僕も思います」


「ですよね。もともと叶わない恋だったんです。深手を負う前に失恋してよかった」


 何かを言い聞かせるような彼女の口調は、聞いていて胸が痛かった。


 でも、大人になっていくにつれて臆病になる――その一言に共感する部分も多い。


 年齢を重ねていくと、望むと望まざると、変に守りに入ってしまって、傷つくことを恐れてしまうのだ。


 大学を卒業して三年ということは、文香さんたちは二十五歳くらいだろうか。渉の歳でも傷つくのは怖い。片想いをしていたのなら、なおさらだろう。


「たまたま友達からこのお店の話を聞いて、有休消化と傷心旅行を兼ねて二泊三日でここに来て。ぼんやりと海を眺めながら恋し浜を散歩していたら、ふと、そんなことを思うようになりました。打算的かもしれないけど、これでよかったんですよ」


「はい」


「でも店長さん、本当に話しか聞いてくれませんよね」


 すると文香さんがテーブルから少し身を乗り出して言った。


「……え?」


「なんかこう、もっと慰めたりアドバイスをしたりするのかなって」