「私、その彼が好きでした。ずっと片想いです。住んでいるところは離れてますけど、意外と職場が近くて。けっこう頻繁に連絡を取り合って、仕事の愚痴とか他愛ない話とか、よく居酒屋なんかでしてました。そのうち、だんだん好きになっていったんです。だから願掛けのつもりだったんですよ。なんとか三年、金魚を長生きさせられたら、もしかしたら付き合えるかもしれないっていう。それで頑張って世話を続けていたんですけど、今年の二月の終わり頃にあっけなく死んでしまって。そのことは、彼には言い出せませんでした。新しい金魚を飼おうかなんて邪なことも考えましたけど、結局、それもできないまま三月に集まることになって、彼はサークルのほかの子と付き合ってしまいました」


「文香さんは、彼に気持ちを伝えなかったことを後悔していますか?」


 尋ねると彼女は、わかりません、と苦笑をこぼした。


「あのときの決め事にこだわっているとか、もっと言うと囚われているとか、そういうつもりは全然ないんですけど、金魚鉢の中で力なく浮いている金魚を見つけたとき、ああ、終わった……って心のどこかで思ったのも確かで」


 それから。