「でも、やっぱりプロの方に淹れて頂くコーヒーが一番美味しいですね。よく自分でも淹れるんですけど、いまいち美味しさに欠けるっていうか」


「恐れ入ります」


 恭しく一礼した渉に、彼女のいたずらっぽい笑い声が重なる。


 顔を上げた際に見た彼女の笑顔は、そこにぽっと小さな花が咲いたように可憐だった。


 またカプチーノを、と言う彼女に好きな席で待ってもらうことにし、渉はさっそくカプチーノを二つ、淹れることにした。


 片方は自分用だ。渉も飲みたくなった。


 しばらく豆を挽く音や湯を沸かす音、フィルターに移した挽きたての豆に湧いた湯を注ぐコポコポという音が店内に響く。


 濃厚なコーヒーの香りが店の中を埋め尽くすように立ち上り、それとともに黒い液体がドリッパーに落ちていく。


 昨日のこの時間は賑やかだったけれど、今日は静かである。


 昨日のお母さん方は、良くも悪くも一昨日から下宿をはじめた野乃が物珍しくて顔を見に来たのだろう。


 渉も二年前はそうだった。


 じきに慣れるよ、と心の中で野乃に小さくエールを送りながら、最後に泡立てたミルクを注いで、一つを彼女の待つテーブルへ運んだ。


「……あの、私の話、聞いてもらえませんか?」