写真を落としていった彼女は、その日は戻ってこなかった。
今頃、落としたことに気づいて焦っているんじゃないかと思い、閉店時間を過ぎてもしばらくは店の明かりを落とさずに待ってはみたけれど、午後九時を過ぎても、店のベルは鳴らなかった。
翌日。
昨日と同じくらいの時間に、例の写真の彼女がまた店を訪れた。
渉はほっと息をつくと相好を崩し、カウンターの隅に置いていた写真を彼女に手渡す。
写真を表に返して確かめた彼女は、大事そうに手帳にそれを挟み、心底よかったというように長く息をついた。
「すみません、わざわざ。落としたことに気づいたのが寝る直前だったんです。もうお店も終わっているし、取りに行ったら迷惑かと思って……」
「いえ、そんな。こちらこそ気づくのが遅くなってすみませんでした。すごく大切な写真なんですね。……あの、昨日はあのあと、どちらに? ご旅行でしょうか?」
「あ、昨日は近くの花幸《はなさき》旅館に泊まったんです。旅行というか、有休消化みたいなものですね。明日からまた仕事なので、もう一杯コーヒーを頂いてから帰ろうかと」
今頃、落としたことに気づいて焦っているんじゃないかと思い、閉店時間を過ぎてもしばらくは店の明かりを落とさずに待ってはみたけれど、午後九時を過ぎても、店のベルは鳴らなかった。
翌日。
昨日と同じくらいの時間に、例の写真の彼女がまた店を訪れた。
渉はほっと息をつくと相好を崩し、カウンターの隅に置いていた写真を彼女に手渡す。
写真を表に返して確かめた彼女は、大事そうに手帳にそれを挟み、心底よかったというように長く息をついた。
「すみません、わざわざ。落としたことに気づいたのが寝る直前だったんです。もうお店も終わっているし、取りに行ったら迷惑かと思って……」
「いえ、そんな。こちらこそ気づくのが遅くなってすみませんでした。すごく大切な写真なんですね。……あの、昨日はあのあと、どちらに? ご旅行でしょうか?」
「あ、昨日は近くの花幸《はなさき》旅館に泊まったんです。旅行というか、有休消化みたいなものですね。明日からまた仕事なので、もう一杯コーヒーを頂いてから帰ろうかと」