そんなとき、部屋から出てきた野乃が、ふと言ったのだそうだ。


「親戚に珈琲店をやってる人がいるでしょ、あそこの町の高校なら、行ってもいい」と。


 部屋から出てくれるならなんでもいいと思った叔父夫婦は、さっそく渉に野乃の下宿を頼み込み、ちょっと考えさせてくれませんかと返事を保留にしている間に勝手に転校手続きを済ませ、そうして今日、野乃を単身、ここに送り込んでくることとなった。


 あまり人の話を聞かないのは、外舘の血筋の者にはよくあることだ。良くも悪くも、思い立ったら即行動に移すところも。渉もその辺はもう諦めている。……でも。


「どうしたもんかなぁ……」


 リクエストしてくれたのは嬉しいけど、と渉は頭を掻く。


 野乃がうんと小さい頃、盆や正月に親戚一同で集まったときに数回会った程度の自分のことを覚えてくれていたこと、今、恋し浜で珈琲店を営んでいることを知って頼ってくれたことは嬉しいが、もうかれこれ十年以上会っていないのだ。


 心の面も含めて野乃の扱い方だってわからないし、自分はもう、けっこうなおじさんだと自覚している。


 あの頃は渉はまだ高校生で、野乃は幼稚園児だった。


 五歳かそこらの子供と十六~七の高校生では当然話なんて合うわけもなかったけれど、酔っぱらった親戚たちに早々に疲れてしまった渉と野乃は、よく休憩と子守りを兼ねて縁側で遊んだものだ。