彼女のいた席の下に写真サイズの紙が落ちているのを見つけた渉は、テーブルの片づけもそこそこに、慌てて店の表へ飛び出した。


 彼女が落としたものに間違いないだろう。


 文庫本を取り出したときか、財布を取り出したときか、一緒に出てきてしまったらしい。


 しかし、辺りを見回してみても彼女の姿はもう見えなかった。


 ほんの数分のことなのだが、気づくのが遅れてしまった。


 名前も、それこそ連絡先も知らないし、野乃を一人置いていくわけにもいかず、渉はしばし写真を手に途方に暮れる。


 拾ってみると、指の感覚から、それはやはり写真だった。


 誤って表側を見てしまわないように慎重に拾っていたら、洗い物を終えたばかりで手がさらついており、なかなか上手く拾えず、またそこでも少々の足止めを食らってしまったのだった。


「気づいて取りに来てくれるといいんだけど……」


 渉は後ろ髪を引かれる思いで店に戻る。


 外はもう、とっぷりと日が暮れ落ちている。


 壁の時計を見上げると、もうそろそろ午後七時になろうかというところだった。