――リンリン。


 そのときまた、店のベルが鳴った。


「いらっしゃいませ、ここは恋し浜珈琲店です。お好きな席へどうぞ」


 渉は、空から目を戻してカウンターの奥からにっこりと笑いかける。


「……あの、失恋を美味しく淹れてくれるって聞いてきたんですけど」


「はい。ここは恋し浜珈琲店ですから。美味しく失恋を淹れて差し上げます。もしよろしかったら、可愛い相談役にお話ししてみてはいかがでしょうか。僕なんかよりずっと頼りになる子なんですよ。一期一会だと思って、ちょっと考えてみてください」


 そう尋ねたその人に、渉はまた、ふっと笑った。


 もう少ししたら、きっと野乃が元気な笑顔を咲かせて戻ってくる。






【終】