しかしコーヒーが揃うとすぐに席を立ち、また軽快にドアベルを鳴らして真夏のギラギラ輝く太陽のもとへ飛び出していった。なんだかこの頃の野乃は弾丸っぽい。


「ふふ」


 でも、それが本来の野乃なのだということは、渉もよくわかっていた。思わず笑い声を漏らしてしまいながら、ずいぶん頼もしい背中になったなと渉は思う。


「はは。野乃ちゃんらしいや」


 この調子だと店のメニューに口を出してくるのも時間の問題なのではと思い至って、ますますおかしくなってしまう。


 例えば、スイーツを置いてみたらどうかとか、ラテアートのバリエーションを増やしてみたらどうかとか、想像するだけで面白い。


 夏休みの間だけじゃなくアルバイトさせてほしい、なんて言い出すかもしれない。野乃はお客様の心を解きほぐすのが上手だから、きっとそういう面でも頼りにしてもらえるだろう。


「……ああ、いい天気だ」


 洗い物からふと顔を上げ、窓の外の青空に目をやる。


 空はどこまでも抜けるように澄んでいて、すぐ近くの砂浜から、海水浴客たちの楽しそうな笑い声が海風に乗って渉のもとまで運ばれてくる。