「はい。二人にもオリジナルブレンドのアイスコーヒーね。急いで追いかけてきたんならなおさら喉が渇いたでしょう。今日はほんと、真夏みたいに暑い日だから」


 すかさず二人にも、野乃と同じコーヒーを出す。元樹君はすでに二杯目に口をつけていて、すっかり小さくなって中の氷に助けを求めていた。


 なんだか不憫な図である。もしかしたら元樹君も渉と似たタイプかもしれない。


 でも、たぶん男は総じて〝女性〟という生き物にあらゆる面で弱い。渉もよーく学習済みだ。


 それはともかく。


「一気に賑やかになりましたね。これじゃあ、ゆっくり感傷に浸る暇もありませんね」


「うーん。でもまあ、感傷なら二年間も浸ってたからねぇ。もうそろそろ飽きたよ。これからは、これくらい賑やかじゃないと。野乃ちゃんたちを見てると元気が出るし」


 カウンターに寄りかかって三人を眺める渉にコソコソ近づいてきた野乃と、そんなやり取りをする。……本当にそう思う。心から。


 野乃が来てくれたおかげで変わった、店の中の風景。雰囲気。渉の心。野乃の心。そのどれをとっても、この店にとって必要な変化だったのだと思う。


「それならよかったです!」


 言って、野乃が三人のもとへ駆けていく。


 その眩しい背中に、渉はいつものように眼鏡の奥の瞳をふっと緩めた。