「ん! これならブラックが苦手な私でも飲みやすいです。苦みが少なくて、ちょっと酸味が効いてる……? 香りも豊かだし、やっぱり缶コーヒーとは全然違いますね」


「ふふ。そうでしょう。なんてったって野乃ちゃん用のブレンドだからね。ブレンドの楽しいところはさ、産地とか豆の焙煎の具合とか、どれをどう組み合わせるかっていうセンスと経験値もあるけど、一番は淹れてあげる人がどんな顔で笑ってくれるのかが想像できるところなんだよね。野乃ちゃんは苦いのがそんなに得意じゃないから、普段は仕入れない豆も仕入れてみたりしてね。その間、すごくウキウキして楽しかったよ」


「……う、なんだかお恥ずかしいです」


 赤面して俯く野乃に、渉はまだ若干涙の痕が残る目を細めて「はは」と笑った。


 どうやら、この二年の間で、ここでコーヒーを淹れることがすっかり渉の体に馴染みきってしまっているらしい。


 けれどそれも無理はない話だと渉はまた笑った。


 だって自分は、もうちゃんと恋し浜の人間になっている。