最後は、こんな文章で締めくくられている。


 ――一人でも大丈夫そうに見えるけれど、彼は本当は寂しがり屋だから。どうか恋し浜に立ち寄った際は、彼のところに顔を出してあげてほしいのです。きっと、とびきり美味しいコーヒーを淹れてくれるはずです。我儘なのは承知ですが、私のせいで傷ついてしまった彼をどうか癒してあげてはもらえないでしょうか。


 彼は聞き上手な人です。なんでも話したくなります。そんな癒しの雰囲気を彼は持っています。店長とお客様という関係だからこそ、恋の相談でも、失恋の話でも、日常の些細な出来事でも、コーヒーのお供にいかがでしょうか。


 泣きそうな顔をしていたら私のせいです。


 笑っていたらあなたのおかげです。


 『恋し浜珈琲店』は、あなたのお越しを心よりお待ちしています。  clair cat



「知世……」


 小さく呼んだ彼女の名前は、涙に溶けて消えていった。


 隣でじっとしている野乃のグラスの氷が、その呼びかけに応えるようにカランと涼しげな音を立てる。


「知らなかった、知世がこんなことを思っていたなんて……」