勢いで仕事を辞めて付いてきたけれど、着々とオープンの準備が進んでいくにつれて、このままではいけないと思うようになっていったという。


 好きだからこそ、もう甘えられない。好きだからこそ、もう渉を自由にしてあげなくてはいけないと思ったと、二年前の知世は渉のもとを去って間もない中でそんなことを書いていた。


 荷物を残していくのは、自分勝手な未練だと書いてあった。


 いつまでも渉がそれを取っておくわけではないだろうことはわかっているが、捨てるまでの間だけでも、渉のそばに自分のものを残しておきたかったと。でも、渉の匂いが残る飼い猫を連れて行くことだけは、どうか許してほしい、と知世は綴っている。


 照れ屋で恥ずかしがり屋で、面と向かっては恋人らしいことは何も言えなかったけれど、どんなことでも許し包み込んでくれるような温かさを持っている渉のことが本当に大好きだから、どうしても二人で飼っていた猫を連れて行かずにはいられなかったらしい。


 さらに知世は、渉と付き合った五年間は何もかもが順調すぎて幸せすぎて怖いくらいだったと振り返っていた。