これです。


 そう言って、野乃が画面を渉のほうへ向ける。


「このブログ記事の投稿は、二年と少し前……ちょうど知世さんがメンコちゃんを連れて行ってしまって間もなく書かれたものでした。投稿者の名前は〝clair(クレール) cat(キャット)〟――クレールはフランス語で〝透明な〟という意味があるみたいで、知世さんのイメージにぴったりです。それにこれ。プロフィール写真も白と黒のブチ猫ちゃんが使われているんです。本物のメンコちゃんがどういうブチ模様かは、私はわかりませんけど、渉さんなら見たらわかるかと思うんです。でも、何よりこの記事の内容が渉さんの話と――」


「ありがとう。もう十分だよ、野乃ちゃん。……ありがとう、本当にありがとう……」


 一生懸命に説明してくれる野乃の声を遮り、渉は手で自身の目元を覆うと、そう言ったきりしばらくの間、じっと俯き、とめどなく溢れ出る涙と嗚咽をこらえ続けた。


 書き出しを見たら、すぐに知世が書いたものだとわかった。


 だってそこには、店のオープンの日時や場所、当時は一握りの人たちしか知り得なかった『恋し浜珈琲店』の店名がはっきりと記されていたのだから。