でも、野乃のその気持ちもわからなくはない。


 調べて、わかって、興奮したまま帰ってきたけれど、いざ渉の顔を目の前にしたらどちらが正解なのかわからなくなってしまったのだ。


 そんな野乃にふっと笑うと、


「じゃあ、そろそろオリジナルブレンドの出番かな?」


 渉は思い詰めた顔をしている野乃に軽くウィンクするなりコーヒー豆に手を伸ばした。


 渉もそれは常々気になっていた。せっかく野乃が調べてくれたのだ、野乃もこの一週間できちんとけじめをつけていたので、今度は渉も正真正銘、最後のけじめをつける番だ。


 ちょうどお客様もいない。それに、まさに今しがた休憩しようと思っていたところだったのだ。


 外は蝉の大合唱。腕によりをかけてブレンドした、野乃のために苦みを落として酸味を少しだけ強くしたブラックをアイスで飲むのも、きっと美味しいだろう。


「とりあえず、いったん着替えてきますね」


 途端にぱあぁっと表情を明るくし、そう言ってトントントンと足取り軽く二階へ上がっていった野乃を見送り、渉は湯を沸かしはじめる。