元樹君だって野乃の笑った顔を見るのが何より嬉しいのだ。


 頑張れ少年。まあ、野乃をデートに誘うときは、渉が父親のように立ちはだかってやるつもりではあるけれど。


「野乃ちゃん、これお願いね」


「あ、はーい!」


 ちぇっ……と毒づく元樹君のことは、ひとまず気づかなかったことにして、その日を楽しみに思いながら、渉もカウンター内で忙しなくコーヒーを淹れ続けたのだった。


 *


 それから一週間ほどして、いよいよ夏休みが近づいてきた頃。


「やっとわかりました!」


 息せききって学校から帰ってきた野乃が〝おかえり〟の〝お〟さえ言わせない勢いと迫力で渉に迫った。


 ちょうど客足が途切れ、洗い物も済んだので、さてコーヒーでも飲みながら読書しましょうかねと思った矢先、野乃が転がり込むようにして帰ってきたのだ。


 かなり自転車を飛ばしてきたのだろう。連日の暑さのせいだけではなく顔は紅潮していて、薄っすらと汗もかいている。


 ドアベルのほうを覗いても元樹君が入ってくる気配がないところを見ると、今日は珍しく野乃は一人で帰ってきたらしい。いや、野乃のことだから、もしかしたら置いてきたのかもしれないけれど。


 それはともかく。