その反面、今日は嘉納さんや三川さんの姿もなく、せっかくの二人きりだというのに、野乃が全然構ってくれないので元樹君はちょっぴり面白くない顔をしている。
これは自覚済みか、それとも自覚なく焼きもちを焼いているのか……。
「はい、これ。野乃ちゃんには内緒でサービスね。もうちょっとしたら店内も落ち着いてくると思うから、ごめんだけど、それまで野乃ちゃんのこと、借りるね」
「なっ……」
「ははは。ちゃんと返すから心配しないでよ」
「……渉さんって、案外、意地悪ですよね」
「まあね」
どちらにせよ、やけに可愛らしいむくれ顔だったので、ソーダをサービスしてみた渉だった。結局野乃に見つかって、二人してすごい顔で睨まれてしまったけれど。
飲み物一杯だろうがしっかり代金を払ってもらうのが、どうやら野乃のポリシーでもあるようだ。元樹君と二人で顔を見合わせ、こっそり苦笑を交わし合う。
しかしそれもすぐに見つかってしまい、それからしばらくの間、男二人は肩身の狭い思いを強いられた。
でもまあ、野乃の元気がいいのは、いいことだ。元樹君もそれは同じなようで、店内を忙しなく動き回る野乃を見る彼の目は、とても優しい。