「さよなら、知世、メンコ。できれば、いなくなった理由が知りたいんだけど……まあ、そんなことを聞くのは野暮だよな。元気でいてくれたら、それだけでいいよ。二人とも、どうか幸せに。俺は俺で幸せだから、こっちのことはもう忘れていいよ」


 ごみステーションに知世たちが残していったものを置いて、踵を返す。


 正直、気になることはたくさんあるけれど、突き詰めれば一人と一匹の今が幸せならそれでいいのだ。


 そう心から思えるようになったことが、渉は嬉しかった。



 時計の針が十時を迎える少し前。店先の掃除を終えた渉は、いつものように【close】のプレートをひっくり返して店を開けた。


 この日は、どういうわけか開店後間もなくから野乃が学校から帰ってくるまで、細々とだが客足が途切れることはなくて。ちょうど子供たちのお迎えの時間になると、店は子供とその母親たちでほぼ満席の大入りとなった。


 いつものように元樹君とともに帰ってきた野乃が、店内の様子を見るなり、さっそく接客の手伝いをしてくれる。


 あまり表には出たがらない子だけれど、渉があんまりひっきりなしにコーヒーを淹れているので、見兼ねて手伝うことにしてくれたようだ。