おいしい失恋の淹れかた~ここは恋し浜珈琲店~

「メンコくらい、置いていってくれてもよかったんだけどな……」


 まあ、そういう一見して何を考えているかわからないところも、ミステリアスだったし惹かれる部分でもあったから、今となっては、悪い思い出ではない。


 なにせ、事故のせいで記憶の一部が欠けていて、人嫌いな人かと思われた第一声が『ねえ、天体観測、しない?』だったのだ。


 そこから付き合おうと思った渉も渉だけれど、一緒にいたら思い出せそう、なんて台詞で口説いてくる彼女も彼女だ。


 もしかしたら、自分が保護して子猫から育てた猫だったから、メンコだけは愛着があったのかもしれない。


 キャットフードも新しいものをまた買えばいいだけだし、実際メンコはその餌があまり好きではないようで、いつも人間のご飯を欲しがり、その可愛さにすっかり甘くなっていた知世は、案の定メンコをブクブクと太らせてしまっていた。


「――あ。でも今は、気難しい猫がいるしな。ふ、一匹で十分だよな」


 涙は、思ったほどは出なかった。


 そんな自分にちょっと驚きつつ、ふと、泣き疲れて眠ってしまっている可愛らしい保護猫のことを思い、笑ってしまった。