ここに――この店に縛られ、身動きが取れなくなっていると、心のどこかでそうやって自分のことも慰めてきたけれど、今はもう、野乃がいる。
ちょくちょく顔を出してくれる元樹君たちや、源蔵さん、よくしてくれる恋し浜の人たちが優しく、時にはちょっとお節介に自分たちのことを見守ってくれているのだから、一人なんかじゃない。
ふらっとコーヒーを飲みに訪れる人たちもいる。なぜか渉のもとへは失くした恋を抱えた人が集まるけれど、今はそれも、話を聞くだけだった渉とは違って、野乃が誠心誠意、その失恋の痛みを和らげる努力をしてくれている。
野乃が来てから、今までの日常ががらりと変わった。お客様の笑顔も増えた。知世がそこにいなくても、店にはいつも渉の笑顔と漂うコーヒーの香りがある。
「……よし。これで全部だな。ふは、少なすぎだろ、いくらなんでも」
知世はここへ来る際、自分の荷物のほとんどを処分していたので、まとめると言っても大サイズのごみ袋たった一つで足りてしまい、渉は思わず苦笑が漏れた。
しかもまだ若干の余裕がある。どれだけ物に執着のない女性だったんだろうか。メンコを連れて行ったのがほとんど奇跡のように思えて、苦笑が次第に泣き笑い顔に変わっていく。
ちょくちょく顔を出してくれる元樹君たちや、源蔵さん、よくしてくれる恋し浜の人たちが優しく、時にはちょっとお節介に自分たちのことを見守ってくれているのだから、一人なんかじゃない。
ふらっとコーヒーを飲みに訪れる人たちもいる。なぜか渉のもとへは失くした恋を抱えた人が集まるけれど、今はそれも、話を聞くだけだった渉とは違って、野乃が誠心誠意、その失恋の痛みを和らげる努力をしてくれている。
野乃が来てから、今までの日常ががらりと変わった。お客様の笑顔も増えた。知世がそこにいなくても、店にはいつも渉の笑顔と漂うコーヒーの香りがある。
「……よし。これで全部だな。ふは、少なすぎだろ、いくらなんでも」
知世はここへ来る際、自分の荷物のほとんどを処分していたので、まとめると言っても大サイズのごみ袋たった一つで足りてしまい、渉は思わず苦笑が漏れた。
しかもまだ若干の余裕がある。どれだけ物に執着のない女性だったんだろうか。メンコを連れて行ったのがほとんど奇跡のように思えて、苦笑が次第に泣き笑い顔に変わっていく。


