おいしい失恋の淹れかた~ここは恋し浜珈琲店~

 どこか人を寄せ付けない孤高の気高さを身に纏っている反面、本当は内面の弱さや脆さを心を許した人には知ってほしいと望んでいる、まるで野良猫みたいな野乃。


 彼女もまた、そんな元樹君のことには気づかないかもしれないけれど、どちらにせよ、野乃の全部を笑って許してくれる包容力や優しさを持っている元樹君は、きっともっと彼女といいコンビになれるだろう。


「……さて。俺も野乃ちゃんや元樹君たちに負けてらんないな」


 覚束ない足取りで階段を上り、ゆっくりと部屋に消えていった野乃の後ろ姿をしっかり見送ってから、渉も眠くなってきた目元を擦ってもうひと頑張りと気合いを入れる。


 結局、二杯目のコーヒーも飲み残してしまったけれど、まずはそれを洗って拭いて棚に戻し、それからクローゼットの整理をしようと思う。


 冷蔵庫横にマグネットで貼った、ごみ収集日の予定表は、ちょうど明日が燃えるごみの日だった。


 知世やメンコが残していった荷物をごみと判別したわけではけしてない。けれど、いつまでもクローゼットに入れていても、もうどうにもならない。


 いつかケジメを付けなければいけないと、ずっと思い続けてきた。