おいしい失恋の淹れかた~ここは恋し浜珈琲店~

 涙と一緒に全部流してしまえるものではないだろう。簡単に忘れられるのなら、こんなに泣かない。

 だけど渉は、野乃の手の甲をぽんぽんとあやすように撫でながら、それでいいんだよと野乃に微笑み続けた。


 癒えない傷はきっと誰にでもある。ときどきこうして自分のためだけに泣くことも、長い人生には必要なことだと思う。


 そして、自分にも言い聞かせる。


 ――大丈夫、また飛べる。宿り木でゆっくり羽を休めたあとは、また羽ばたいていけばいい。野乃も、自分も。そうしたら、また一つ世界が開けるはずだから、と。



 やがて泣き疲れた野乃は、テーブルに突っ伏したまま、うつらうつらしはじめた。


 一気に感情を吐き出して相当疲れたのだろう。渉は、眠いところ申し訳ないなと思いつつも寝ぼけ眼の野乃を促し、自分の部屋へ引き上げてもらうことにする。


 親戚とはいえ、いくらなんでも抱いて部屋まで運んでやるのは野乃に対して失礼だ。それに、元樹君の手前もある。


 たぶん彼は、いろいろな意味で野乃を放っておけないのだ。本人はまだ自覚していないかもしれないけれど、もう周りが気づいてしまっている。


 ツンツンしていて、時に冷たくて、気まぐれなところもあって。