おいしい失恋の淹れかた~ここは恋し浜珈琲店~

 言葉を詰まらせ、キュッと唇を噛みしめて俯く野乃の手に、渉は自分の左手をそっと重ねた。


 思った通り野乃の手は夏なのに冷えきっていて、温めてあげなければと思う。


「必要なら、二人と連絡を取ってもいいと思う。元樹君たちに話してみるのも、きっと喜んでくれるはずだよ。だってあの三人は野乃ちゃんのことが大好きなんだ。俺だって叔父さんたちだって、野乃ちゃんが笑ってくれていたほうが嬉しいんだから」


「わた、渉さ……」


「うん。でも今は、何も考えずに自分のためだけに泣いてあげて。野乃ちゃんはさっきから〝○○してしまって〟ってばかり言ってるけど、野乃ちゃんのことが大好きなみんなのために、もうそうやって一人で背負い込まないでであげてよ。……どうにもできないことだったって思うことにしようよ。人生なんて、みんなそんなもんなんだから」


 そう言って手の甲を優しく包み込むと、野乃の目からはさっきまでとは比べ物にならないほどの大粒の涙がぼたぼたとテーブルに落ちはじめた。


 わんわん声を上げて泣く野乃は再会してから今までで一番野乃らしくて、幼い頃の彼女の面影がいっそう色濃い。