おいしい失恋の淹れかた~ここは恋し浜珈琲店~

 これでは、野乃がここに逃げてきた意味が、渉のところへ行きたいと言ってくれた意味が、助けてほしいと言葉なく頼ってくれた意味が、まるでないのだ。


 渉はコーヒーで人を癒す人だと野乃は言った。


 だったら、もう野乃だって……。野乃だって、そろそろ自分で自分を許してあげてもいいじゃないか。


 困惑したように泣き濡れた瞳を揺らす野乃の目をしっかり見つめ、渉は微笑む。


「元樹君たちとちゃんと友達になりたいんだよね。本当はもう前のことから解放されたいんだよね。俺が淹れたコーヒーも美味しく感じられるようになりたいんでしょう? 野乃ちゃん自身も癒されたいと思ってくれるようになったから、俺に話そうと思ってくれたんだって、俺はそう思うけど……違う? もうそろそろ、自分を許してあげなよ」


 自分のためだけに泣いて、泣いて泣いて、最後にほんのり笑える場所をここにしようと思ってくれたって、誰も咎めたりなんかするわけがない。


 癒しを乞うてもいのだ、もう。


「そ、れは……」