おいしい失恋の淹れかた~ここは恋し浜珈琲店~

 ――あなたに癒してもらう価値なんて、私にはないんです。


 まるでそんな声が聞こえてくるようだった。


 癒されるべきは、わけもわからず傷つけられた七緒であって、返事もせずに自分の前から姿を消してしまった野乃を思っていた寺島君であって。


 けして自分なんかじゃないと、野乃が全身でそう言っているように渉には思えて仕方がない。


 そのときふと、もしかしたら知世も……と一瞬だけ彼女のことが頭をよぎって、しかし渉はすぐにその思考回路を寸断した。


 彼女のことは今はどうでもいい。今はただただ、目の前で泣いているこの女の子の涙を、どうにかして止めてあげなくてはと思う。


「でも、何も聞かずにここに置いてくれる渉さんにも、送り出してくれた両親にも、それから汐崎君たちにも、だんだん自分を偽ることに罪悪感を持ちはじめて……。この間、熱を出して休んだときなんか、どうしてみんな、こんな私に優しいんだろうって思ったら、本当に申し訳なくて。嬉しかったけど、とてもつらかったんです……」


 そんな矢先、野乃が次々と今まで溜め込んでいた気持ちを吐露していく。