おいしい失恋の淹れかた~ここは恋し浜珈琲店~

 野乃は野乃で。七緒は七緒で。寺島君は寺島君で。


 それぞれ、どうにもならない思いや、やりきれない思いを抱えていたのだと思う。


 そんな中で、一時でも物理的な距離ができる夏休みは、野乃にとってどれだけ救いになったことだろうか。


 繰り返される日常がまたはじまるまでの、ほんの少しの、一ヵ月間だけのエスケープ。精神的に追い詰められていた野乃には、必要な時間だったのだ。


 野乃はもう、十分に苦しんだはずだ。


 もういいやと、ふと気持ちが途切れてしまうのも、誰にも責められることではないように思う。


 そう思うときは、誰にだってある。すんなり諦めたり気持ちを切り替えることのできる比較的軽いものから、いつまでも鈍かったり鋭かったりする痛みを伴うものまで。


「野乃ちゃん、もういいよ。わかったから、もう話さなくていいから」


 渉はたまらず、嗚咽を漏らし続ける野乃に身を乗り出していた。