おいしい失恋の淹れかた~ここは恋し浜珈琲店~

 一見、何事にも関心がなさそうな言葉に見えて、その裏では、嘉納さんが言ってい たように、野乃は三川さんに対して〝一本筋を通していた〟ということなのだ。


 だからこそ嘉納さんは、あのとき『ちょっと心配になるときがあるっていうか、無理してるんじゃないかって思うときもけっこうある』と、野乃のその頑なな姿勢を心配していた。


 カチリ、カチリとはまっていくピースから浮かび上がってくる野乃の心は、罪の意識と恐怖心、だろうか。ただ、野乃が自分自身を強く縛りつけていることだけは絶対に間違いない。


 元樹君が前に言っていた『やっぱり集団で来られるとビクビクするみたいで』という野乃の行動も、元樹君に必要以上に世話を焼かれるのをとても嫌がっていたのも、きっとその出来事から生まれた彼女の防衛本能なのだろう。


 教室に一人ぽつんと残った三川さんを体育祭に連れ出したとき、野乃はいかほどの勇気を振り絞ったのだろうか。


 渉はあのとき、もっともらしい言葉を並べて迎えに行きたそうにしている野乃をけしかけたけれど、野乃にとっては、ただただ残酷な言葉の羅列だったのかもしれない。今さらそれに思い至って、渉は喉元がキュッと締まる思いだった。