「親父や母さんから、転校生が来るってことは前もって聞いててさ。ちょうど同じクラスだったし、わかんないところもあるだろうからって思って、休み時間とかに校内を案内してたんだけど。そしたら野乃、女子の集団とすれ違ったときに、いきなりオドオドしはじめちゃって。どうしたんだよって聞いたら、怒って口利いてくんなくなっちゃったんだ」


「そう。どうしたんだろうね、野乃ちゃん」


「……まあ、こんな中途半端な時期に転校してくるくらいだから、前の学校で何か嫌なことがあったんかな。なんか、とにかく集団が怖いみたいで。俺と二人で歩いてたことも、もしかしたら何かあるのかも。渉さん、野乃の親戚なんだろ? 聞いてない?」


 渉は、ごめんねと眉尻を下げて首を横に振る。


 そのあたりの事情は、野乃の両親である叔父夫婦も知らない。


 考えられることといったら、いじめ……なのかもしれないけれど、それさえ野乃は誰にも話したくないのだろう。


 無理に聞き出すわけにもいかないし、難しい問題だ。


「あ、でも、元樹君、もう野乃ちゃんのこと名前で呼んでくれてるんだね。俺も昨日、十二年ぶりに再会したばかりで、今の野乃ちゃんのことは少しもわからないんだけど、本当はよく笑う子なんだ。とってもいい子だし。仲よくしてあげてほしいな」