おいしい失恋の淹れかた~ここは恋し浜珈琲店~

「それからの寺島君は、まるで人が変わったように七緒に冷たくなりました。七緒が職員室から戻ってきていなかったのが、よかったのか悪かったのか……。いえ、戻ってきていたほうが、どれだけマシでしたでしょうか。寺島君は、次の日からも私にいつも通り話しかけました。昨日のことがなかったみたいに。でも七緒には……」


 七緒の話を適当に聞き流したり、話しかけられても聞こえないふりをしたり。


 野乃には普通に話しかけるのに、それを間近で見ていた七緒はどんな気持ちだったのだろうと、野乃はカップに添えた手に力を込めて、呻くようにそう言った。


「……そう。もしかしたら彼は、七緒ちゃんさえ自分を諦めてくれたら、野乃ちゃんが素直になれると思ったのかもしれないね。それだけ野乃ちゃんのことが好きだったのかもしれない。彼も彼で、こんなに仲良くなってプライベートなことも話すのに、その意味は何だろうってずっと考えていたんだろうね。野乃ちゃんには気持ちはなかったし、言葉もずいぶん選んで断ったけど、その意味を自分の理想の形に解釈したのかもしれない」