そのせいで彼女との縁は強固なものにはならなかったけれど、それもまた、縁のうち、ということだろうか。
「お待たせ。ブラックだけど、よかった?」
「はい。ミルクと砂糖を入れれば私でも普通に飲めますし」
「うん」
とにかく、コーヒーの香りに包まれていると心安らかになるのは、今も昔も変わらない。
今はこうして、まだ若干お子様舌な野乃が目の前に座り、ミルクと砂糖をせっせとカップに投入している。これが今の『恋し浜珈琲店』の日常なのだ。
「――あの。じゃあ今度は、私の話、いいですか?」
すると、野乃がふと顔を上げた。
その目や表情は想像していたよりずっと決然としていて、椅子に背中を預けてのんびりコーヒーを啜っていた渉は、思わず居住まいを正す。
「い、いいの……?」
「むしろ結末を決めなきゃいけないのは私のほうなんです。自分の身には降りかかってきてほしくはないけど、同じような経験をした人はたくさんいて。きっと小説とか漫画のネタにもならないようなテンプレな失恋の話なんです。けど、せっかくなので」
「うん、野乃ちゃんがそう言ってくれるなら、俺は全然構わないけど……」
「お待たせ。ブラックだけど、よかった?」
「はい。ミルクと砂糖を入れれば私でも普通に飲めますし」
「うん」
とにかく、コーヒーの香りに包まれていると心安らかになるのは、今も昔も変わらない。
今はこうして、まだ若干お子様舌な野乃が目の前に座り、ミルクと砂糖をせっせとカップに投入している。これが今の『恋し浜珈琲店』の日常なのだ。
「――あの。じゃあ今度は、私の話、いいですか?」
すると、野乃がふと顔を上げた。
その目や表情は想像していたよりずっと決然としていて、椅子に背中を預けてのんびりコーヒーを啜っていた渉は、思わず居住まいを正す。
「い、いいの……?」
「むしろ結末を決めなきゃいけないのは私のほうなんです。自分の身には降りかかってきてほしくはないけど、同じような経験をした人はたくさんいて。きっと小説とか漫画のネタにもならないようなテンプレな失恋の話なんです。けど、せっかくなので」
「うん、野乃ちゃんがそう言ってくれるなら、俺は全然構わないけど……」


