野乃が元樹君とともに帰ってきたのは、ちょうどそんなときだった。


 なぜか野乃のほうはむっすりとした顔をしているが、一体どうしたんだろう?


「野乃ちゃん、おかえり。元樹君も。……どうしたの?」


「いえ、何でもありません」


「……そう」


 気になって尋ねてみるが、野乃の返事は硬いものだった。


 野乃の半歩後ろで気まずそうな顔をしている元樹君を視界に捉えているうちに、彼女は店の中をやや速足で歩き、カウンター脇の階段から部屋に上がってしまった。


 どうやら訳を聞くタイミングを完全に図り間違えてしまったらしい。


 今は誰にも触れられたくないのだ、きっと。


「野乃のやつ、俺があんまり馴れ馴れしいから、ヘソ曲げちゃって」


 そんな野乃に代わって訳を話してくれたのは、坊主頭が凛々しい元樹君だった。


 カウンター前の席に通し、男の子だし炭酸がいいだろうかとスプライトをグラスに出すと、喉が渇いていたのだろう、彼は半分ほど一気に飲み、ふぅと一息ついてから話しだした。