だから、記憶が戻って、今自分がいるべき人のところへ帰ったのか、ただ単に脱サラして田舎暮らしになった恋人との生活に将来の不安を感じて早々に見切りをつけたのかもわからないまま、宙に浮いた状態のこの二年は、野乃がやってくるまで本当に地を這うような寂しさが常に渉の周りに付きまとい、片時も離れてくれなかった。
やっと少し息ができるようになってきたのは、ここ数ヵ月の間でのことだ。
野乃のことを思い、野乃の世話を焼き、昔の思い出に浸ったり、思い出したり。ときどき彼女の友人たちが渉の淹れたコーヒーを飲みに来てくれるようになってから、少し息がしやすい。
今も願うのは、ただただ、彼女の幸せだけだ。
彼女は渉に唐突に大きな傷を負わせたし、様々な感情も植え付けていったけれど、それを全部取り払った最後には、やっぱり彼女の幸せを願う心だけが残る。
彼女の最後の顔は、いつも間近で見ていた愛しい寝顔だった。一人でなければいいなと思う。寂しくなければいいなと思う。
そんな、透明な彼女に恋した男の話だ。
*
「――そういうわけなんだけど、野乃ちゃんはどう思う?」
やっと少し息ができるようになってきたのは、ここ数ヵ月の間でのことだ。
野乃のことを思い、野乃の世話を焼き、昔の思い出に浸ったり、思い出したり。ときどき彼女の友人たちが渉の淹れたコーヒーを飲みに来てくれるようになってから、少し息がしやすい。
今も願うのは、ただただ、彼女の幸せだけだ。
彼女は渉に唐突に大きな傷を負わせたし、様々な感情も植え付けていったけれど、それを全部取り払った最後には、やっぱり彼女の幸せを願う心だけが残る。
彼女の最後の顔は、いつも間近で見ていた愛しい寝顔だった。一人でなければいいなと思う。寂しくなければいいなと思う。
そんな、透明な彼女に恋した男の話だ。
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「――そういうわけなんだけど、野乃ちゃんはどう思う?」


