トヨさんをはじめとする近所の人たちも源蔵さんも、渉と顔馴染みの恋し浜界隈の人たちも、そのことには触れないでいてくれている。
かなりの人見知りだった彼女のことだから、それなりに印象に残っているとは思うのだが、噂好きの反面、本当に聞いてほしくないこと、言いたくないことには、彼らはそっとしておいてくれるのだ。
そうして二年。
すっかり〝ここの人〟になった渉は、今でも彼女の帰りを待っているのか、まだ呆然としたまま、二年前に取り残されているのか自分でもわからないまま、地域の人の助けを得ながら『恋し浜珈琲店』を一人で営み続けている。
そういえば、記憶喪失のことについては、彼女は付き合っていたあの五年間の中で、一度も話題に出したことはなかった。
渉もあえて思い出させようとはしなかったし、はじまり方はかなり特殊だったけれど、付き合っていくうちに確かに彼女に恋をしていたから、そんなオプションみたいなことなんて、いつの間にか気にならなくなっていたのだ。
彼女の記憶が一部欠けていても、そうではなくても、彼女は渉にとってはただの〝小湊知世〟という愛しい女性に変わりはなかった。
そんな彼女ごと、好きだった。
かなりの人見知りだった彼女のことだから、それなりに印象に残っているとは思うのだが、噂好きの反面、本当に聞いてほしくないこと、言いたくないことには、彼らはそっとしておいてくれるのだ。
そうして二年。
すっかり〝ここの人〟になった渉は、今でも彼女の帰りを待っているのか、まだ呆然としたまま、二年前に取り残されているのか自分でもわからないまま、地域の人の助けを得ながら『恋し浜珈琲店』を一人で営み続けている。
そういえば、記憶喪失のことについては、彼女は付き合っていたあの五年間の中で、一度も話題に出したことはなかった。
渉もあえて思い出させようとはしなかったし、はじまり方はかなり特殊だったけれど、付き合っていくうちに確かに彼女に恋をしていたから、そんなオプションみたいなことなんて、いつの間にか気にならなくなっていたのだ。
彼女の記憶が一部欠けていても、そうではなくても、彼女は渉にとってはただの〝小湊知世〟という愛しい女性に変わりはなかった。
そんな彼女ごと、好きだった。


