特に隠れ家的な雰囲気を目指しているわけでもないのだけれど、渉はもともと、落ち着いた雰囲気のほうが自分も落ち着いて好きなので、自然と店構えもこうなってしまったというわけである。


「お決まりになりましたら、お声がけください」


 おずおずといった様子で空いた席に座った女性の前に、水の入ったグラスを置く。


「すみません、少し騒がしいですか?」


「いえ、思ったより子供がたくさんいたので驚いてしまって。騒がしいなんて、そんな。……あの、カプチーノをひとつ、いただいてもいいですか?」


「はい、かしこまりました」


 一礼して再びカウンターに引っ込む。


 ここは端的に言ってしまうと過疎の町だ。初見のお客さんなら、なおさら子供たちに驚くのも無理はない。


 騒がしくて入店を躊躇ったのかと思っていたが、そうでもないようである。湯を沸かしたりコーヒー豆を挽きながら女性の様子を窺うと、子供たちに優しい眼差しを送っていたので安心した。


 最後に泡立てたミルクをカップに注いで持っていくと、女性は「いい香り」と表情を和ませた。


 「ごゆっくりどうぞ」と言う渉に会釈をし、さっそくカプチーノに口をつける。