子供たちもよく来てくれるので、渉ともすっかり仲良しだ。


 子供たちからあっちこっちで話しかけられ、そのたびに笑顔で丁寧に話を聞く渉の評判は、お母さんたちから太鼓判を押されているくらいだ。


 渉も子供がとても好きだ。無垢で小さくて、可愛らしい。


 そんな中、再び店のドアベルが音を立てた。


 初見のお客さんだった。


 二十代中盤くらいの肌の白い長髪の女性が、店内の騒がしさに一瞬たじろぎ、入るところを間違えたかしらという顔をする。


「いらっしゃいませ。ここは恋し浜珈琲店です。お好きな席へどうぞ」


「……あ、はい」


「今、お水をお持ちしますね」


 少々強引に接客をしてしまっただろうか、などと思いつつ、席を探して店内を見回している女性を見て、渉はさっそくカウンターに引っ込み、水の用意をする。


 渉はどうしてだか、お好きな席へと言う前に店の名前を言ってしまう変な癖がある。


 源蔵さんをはじめ、馴染みの客からは「変なの」と酷評をいただいているが、店の表に特に看板を出しているわけでもないので、まあいいかと思うことにしている。


 それに、なぜか言ってしまうので、もうずいぶん前から諦めてもいる。