しかし野乃は、若干躊躇いながらも、ズバリ核心を突いてくる。カチャカチャとカップを洗う音が店内に響く中、野乃は渉の横に立って布巾を持ち、泡を流し終わったカップを拭く準備を万端整えていた。


 やはり野乃は、人の心の機微に敏感すぎるくらいに敏感だ。それは渉も例外ではなく、この子には誤魔化しは一切効かないなと渉はまた苦笑した。


「そっか。やっぱり野乃ちゃんの目は誤魔化せなかったか。……うん、そうだね、気を紛らわすために、いつもはしないことをしたり、口数が多くなっちゃったりしたんだよ」


「……何かあったんですか?」


「ううん、何もない。もうずっと、野乃ちゃんが来るまでは何もなかったよ。だけどこの前、無理にいろいろ聞き出そうとして怒らせちゃったでしょう。それで俺自身の気持ちに変化があったというか。……話したくないことは、俺にもあるから。でもそれじゃあ、いけないと思ったんだよね。ずるかった。本当に。あのときはごめん」


 言うと、野乃はしばし考えるように黙り込んだ。その間、何個か洗い終わったカップが野乃の手元に渡る。


 でも結局、いくら推察してもこれしか言葉が見つからなかったようで、