三川さんと嘉納さんは慌てふためきながら財布を取り出そうとして、渉も慌てて二人を止めた。「ツケにしておくよ」と冗談めかして言えば、二人は揃って「ありがとうございます」と頭を下げ、「まだかよー」と急かす元樹君の姿を追って帰っていった。


 残ったのは、渉と野乃。


「早めに寝なよとか言っておきながら、結局は二杯も飲ませちゃって悪かったね。残してくれてもよかったんだよ。俺の絵の下手さにも驚いたでしょ」


 カップを下げるのを当たり前のように手伝ってくれる野乃に苦笑する。


 まあ、絵の上手い下手は今は脇に置いておくにしても、実行委員の仕事で忙しかったここ最近だ、それからやっと解放され、三川さんとも和解できた今日くらいは、ハーブティーなど心の休まるものを淹れてあげるくらいの気遣いがあってもよかったと、今さらながら反省している渉だ。


 といっても、そんな洒落たものはこの店にはないのだけれど。


「いえ、帰ってきたときの渉さんの様子が、いつもと少し違ったように見えたので……。絵はまあかなり個性的でしたけど、ガムシロップを山盛りにしたり、饒舌だったり、ちょっと渉さんらしくないなって思って。それでぼーっとしちゃったっていうか」