渉が冗談で脅すと、元樹君は顔をしかめ、野乃たちはまた笑う。


 今は元樹君や野乃たちに余計な心配をかけまいとして明るく笑っている三川さんも、きっと一人になったら失恋の痛みに泣いてしまうのだろうけれど。


 それでもせめて、今だけは。同級生として、クラスメイトとして、この輪の中にいてくれたらいいなと思う。


 今回の騒動で彼女が失ったものは、けして少なくない。けれど、得たものもあったはずだ。野乃にも、元樹君にも嘉納さんにも、それはきっと等しい。


 渉は考える。これからの彼らについて。野乃について。自分について。


 仲良く笑い合う高校生四人の姿をカウンター内から目を細めて眺めながら。自分でもどうしたもんかと思うほど散々な出来のラテアートを飲みながら。



 やがて、コーヒーカップが空になった頃。宣言通り、元樹君は三川さんと嘉納さんを連れて店を出て行った。


 さっきの腹いせのつもりだったのだろう元樹君は、わざと大きな声で「ごちそーさまでした」と言って出て行き、勝ち誇ったようにニヤリと笑っていた。