「ほらよ、コーヒー代。ごっそーさん」


「いつもご丁寧にありがとうございます。今日は鰹のタタキでご飯にしますね」


「おう。その親戚の嬢ちゃんにも食わせてやってくれ。美味いぞ」


「はい」


 そうして十五分ほどして、源蔵さんは店をあとにしていった。


 リンリン、と軽やかに鳴るドアベルの向こうに源蔵さんの白髪混じりの短髪が消えていく。


 夜中から船を出して漁をしていたので、これから遅い朝ご飯だろうか。


 元樹君が学校から帰ってくる頃には、もしかしたら真夜中からの漁に備えて寝ているかもしれない。



 それからも馴染みのお客さんがぽつぽつと入り、午後三時半を過ぎると、幼稚園や保育園、小学校のお迎え帰りに二十代~三十代の主婦層とその子供たちが店にやってきた。


 店内は一気に賑やかになり、つかの間のうち、渉は忙しくなる。


 お母さんたちにはカフェオレやアイスコーヒーを出し、子供たちにはオレンジジュースや、野乃にも作ったようにカルピスソーダのミント添えなどを出す。