元樹君は以前、珠希さんや拓真君、それに今は亡き弘人さんにまつわる失恋話の際、今は親父の漁を手伝うのに夢中で、誰が好きとか、そういうのはあんまり考えらんないし、と言っていた。


 あれからそういくらも日は経っていないのだから、三川さんの思いを知っても、そうすぐには恋愛面に気持ちが向くとも、なかなか考えにくかった。


「ていうか、汐崎はここに居にくいよね。あれだったら、帰ってもいいけど」


 すると三川さんが元樹君に声をかけた。


 はっと弾かれるようにして顔を上げた彼は、自分を見つめる女子三人の視線にたじろぎながらも、カフェラテのカップに手を伸ばす。


「いや、いい。俺も男だし、なんなら俺の悪口も好きなだけ言えばいい。……今はそれしかできねーもん。煮るなり焼くなり、三川の気が済むまでなじってくれ」


 しかし、その威勢のいい言葉とは裏腹に、少しだけ元樹君の手が震えているのを渉は見逃さなかった。


 ぐっとカフェラテを煽り、どんとこい、と言わんばかりに腕組みをするのだけれど、その背中はやはりどこか弱々しげに感じられて、渉は苦笑する。


 と。