自転車を漕げばそれほどの時間はかからないが、歩いてくるとなると、やはりどうしても遅くなってしまう。帰宅時間の目処を立てるためと、店に来たらすぐにコーヒーを出せるようにと思い、渉はあらかじめ時間を逆算して滞りなく準備を終えていたのだ。


 なので、四人が席に着くなりささっとコーヒーを出せたというわけだけれど――。


「……野乃ちゃん?」


「あ、いえ。ずっと忙しかったから、全部終わって、なんか魂抜けちゃって」


「そう……? じゃあ、今夜は早めに寝るといいよ」


「そうですね、そうします」


「……うん」


 きっとどういうわけでここに連れてこられたのかわからないだろう三川さんが、一言も喋らないのはまだしも、野乃がどこか心あらずな様子なのが、少し気にかかる。


 野乃さえよければ、三人が帰ったあと、少し昔の話をしようと思っていたのだけれど、どうやらそれは今度の機会に見送ったほうがいいのかもしれない。


 見ると野乃は本当に疲れている様子で、今さらながら、なにも今日に四人で店においでと誘わなくてもよかったのではないかと、昼間の格好つけだった自分を大いに恥じる渉である。