そうして渉は、さっきの野乃と同じように靴下のまま校舎に駆け込んでいく二人に背を向けて歩き出した。


 校庭では次の競技が行われていて、先ほどの教師に一声かけると、ライトバンに乗り込み五分の道を恋し浜珈琲店に向けて戻る。


 今頃、三川さんは、野乃に加勢に来たあの二人を見て観念している頃だろうか。


 三川さんの行動はけして褒められるものではなかったけれど、そんな彼女を気遣い、心配し、ああして迎えに来た野乃たちの気持ちは、伝わってくれるといいなと渉は思う。


「……俺も、そろそろちゃんと向き合わないとな」


 渉は誰にでもなくぽつりとこぼし、ハンドルを握り直す。


 思い出すと胸が苦しくて、どうしようもなくて、でもあのときはああするしかなくて、それでも思い出さない日はないし、後悔しない日もないけれど。


 止まったまま動き出せずにいた渉のもとに野乃という一人の女の子が現れ、店に訪れる失くした恋を抱えた人たちに正面から向き合い、最良の形を模索している姿は、もう止まっているとは言い難いものとして渉の日常の一部に組み込まれてしまっているのだ。