なので渉は、気まずそうにしている源蔵さんに笑って礼を言う。


 どこにでも、こういう噂話は立つものだ。Iターン、Uターンなんて言われているが、ここは人口の流出はあれど、外から入ってくる人は少ない。


 閉鎖的、という言い方には少し語弊があるかもしれないけれど、決まりきった人しかいない場所で新しい人が入ってくれば、それがまだ高校生の女の子であれば、噂はあっという間に広がるし、詮索されることだって多い。


 でも渉は、そういうところも含めてこの町が好きなのだから、仕方がない。


 野乃には煩わしいことも多いかもしれないけれど、まあ、源蔵さんの血を引く元樹君がそばにいてくれれば、少しは煩わしい思いをすることも減ってくれるかもしれない。


「なんだよ渉、すっかりここの人間になっちまって」


「はは。そう思っていただけて光栄です」


 少しも動揺せず鷹揚に受け流す渉に、源蔵さんがフンと鼻を鳴らして苦笑する。


 嫌な顔のひとつでもしてくれたら気が楽なのに、なんていう声が聞こえてきそうだ。


 しかし、これも田舎の宿命なのだ。いちいち気にしていては、大切なものを見落としてしまう。