「そっか。それで野乃ちゃんは、昨日は疲れた顔して笑ってたんだね。準備で忙しいんだとばかり思ってたけど、クラスでそんなことがあったなんて」


「はい。だからこれは、汐崎君とうまく距離を置けない私のせいなんです」


 弁当をぎゅっと握りしめて。


 小さくなって。野乃は言う。


「汐崎君を無理に追い払っても、結局は何か言われていたはずですけど、こんなふうにクラスの中心だった子が一日のうちに弾き出されるよりは、ずっとずっとマシです……」


「――野乃ちゃん、それは違うよ!」


 それを聞いて、渉は思わず野乃の肩を両手で掴んでいた。


 自分で思っていた以上に大きな声が出ていたようで、野乃はビクリと肩を震わせ渉を見上げ、そのわずかな間に渉の声の残響が昇降口にこだまして消えていった。


「ごめん、急に大きな声を出してしまって……。でも、これは絶対に野乃ちゃんのせいじゃない。三川さんのことはよく知らないから、なんとも言えないけど。でも、そうやって自分さえ我慢したり耐えたりしていれば丸く収まると思ってる野乃ちゃんは、今だけは筋が通っていないように俺には見えて仕方がないよ」


「で、でも……」