しかしすぐに言い直した野乃は、そこでようやく渉の腕を取ったままでいることに気づき、目にも止まらぬ速さで手を離した。


 思いがけず引っ張ってきてしまったがこれからどうしよう、とまた気が動転しはじめたことが手に取るようにわかる。


「お弁当も渡せたし、俺は店に戻るよ」


「え?」


「面談でもないのに校舎に入るわけにもいかないし、委員の仕事の邪魔になっちゃ悪いでしょう。ちょっとだけしか様子は見られなかったけど、野乃ちゃん、いい顔して仕事してたし。まだ早いけど、午後も頑張って。ムカデ競争とか、目玉競技は午後だもんね」


「――」


「?」


 ところが、そう言って踵を返そうとすると、野乃の手がシャツの裾を掴んだ。


 振り向くと、俯いたままの野乃が「三日前のことがきっかけで、三川さんが浮いちゃって……」とか細い声で言った。


「今日も学校には来てるんですけど、校庭にはいなくて」


 私が三川さんの気持ちに気づいていながら、うまく汐崎君と距離を置けないから……。


 まるですべて自分のせいだというように声を震わせ、すん、と鼻をすする。