野乃が麺を茹でたり氷水でしめている間にタレや薬味、皿や箸を用意する。


 その日の食卓も、いつもと変わらず野乃の口数は少なかった。けれど、前ほど息が詰まるような緊張感はない。


 野乃は、少しずつ話す準備をしているのだろうか。だったら自分も、どうしてここで一人、コーヒー店を営んでいるのか、野乃にはきちんと打ち明けるべきだ。


 そんなことを思いながら、エビの香りが口の中や鼻の奥いっぱいに広がる素麺をチュルチュルとすする。


 味は申し分なく美味しかった。明日にでも「ご馳走様でした、美味しかったです」と『大潮水産』の社長に電話を入れよう。


 *


 それから二日。


 今日は梅雨の晴れ間も覗いて、体育祭が行われるにはとてもいい日和が朝から恋し浜界隈を包んでいた。


 昨日は朝一番で大潮水産にお礼の電話を入れ、日がとっぷりと暮れ落ちてから学校から帰ってきた野乃は、さすがに疲れた表情を滲ませながらも「今日はちゃんとみんなで練習できました」と、安堵の色を浮かべて微笑んでいた。


 そうして当日。実行委員で最終チェックと残りの準備の仕事があるからと早くに登校していった野乃を見送り、渉は、さてと、と腕まくりをして弁当の用意に取りかかる。