どう言葉を返したらいいかわからず、それだけを言いながら、渉は無意識に野乃の頭にぽんと手を乗せていた。


 驚いた顔でこちらを見上げる野乃が視界の端に入ったが、構わず何度か、ぽんぽんとする。


 言葉では上手く伝えられないから。抱きしめるわけにもいかないから。せめて手のひらから伝わるもので、気持ちを伝えられたらいいなと思う。


「……くすぐったいですよ」


「うん。でも、もうちょっとだけ」


「じゃあ、お湯が沸くまでなら。タレも薬味も用意しないと。お皿だってまだですし」


「うん」


 そうしてお湯が沸くまでの間、渉は野乃の頭をぽんぽんと撫で続けた。野乃の頭は小さくて、柔らかくて、当たり前だけどちゃんと温かくて。


 野乃をこんな悲しい考え方にさせた出来事は一体何だったんだろうと、渉は胸がぎゅっと詰まる思いだった。


 数分して、鍋の湯がぐらぐらと煮立った。


 乾麺のエビ素麺を入れ、菜箸でかき混ぜる野乃の顔は、もうもうと立ち上る湯気でよく見えなかったけれど。少しだけ目元が潤んでいるように見えたのは、きっと渉の思い過ごしではないだろう。