そんな自分の願望を野乃に押し付けた。


 自分の胸の内は一つも明かさず、野乃にだけ明かせというのは、本当にずるい。野乃が怒るのも無理はない話だった。


「――野乃ちゃん。今日の晩ご飯は何にしようか?」


 たっぷり時間をかけて洗い終わったグラスを拭き、棚に戻すと、そのタイミングで渉は尋ねた。


 委員の仕事や練習で帰りが遅く、晩ご飯のメニューは前日か朝に聞くか、ぱっと食べたいものが浮かばないときは渉が独断で作っていたここ最近だったけれど、今日は帰りが早かった。


 久しぶりに一緒に作ろうかという意味も込めて聞いてみたわけだが、果たしてまだ店内でスマホを見ている野乃は乗ってきてくれるだろうか。


「いいですよ、そんなに気を使われると、本当に申し訳ないです。忘れましょうって言ったじゃないですか。今日は蒸し暑いからツルッとしたもの、作りましょう」


 内心ドキドキしながら野乃の反応を窺っていると、顔を上げた野乃がふっと笑った。